マルトリートメントで子どもの脳は変形する

こんにちは、個別指導塾 学びスタジオの奥川悦弘です。
ご訪問いただきありがとうございます。
今回は、マルトリートメントについて書きます。
∵マルトリートメントとは
マルトリートメント(mal-treatment)は、
大人に加害意識があるかに関わらず、
また、
子どもに身体的・精神的な傷があるかなどに関わらず、
客観的に見て、
「子どもの心や体の健全な成長・発達を阻む不適切な養育」のこと。
行為が軽かろうが弱かろうが、
子どものためだと思ってした行為であろうがなかろうが、
傷つける意思があろうがなかろうが、
子どもの心身が傷つく行為はすべてです。
だから、
どこの家庭にも起こり得ることです。
∵苦しみに適応するために子どもの脳が自ら変形する
生まれたときはわずか400グラムしかないヒトの脳は、
その発達過程において、
外部からの影響を受けやすい非常に大事な時期があります。
その時期は、
乳幼児期、思春期です。
こうした人生の初期段階に、
身近な存在から適切なケアと愛情を受けることが
脳の健全な発達には必要不可欠です。
しかし、
この時期に極度のストレスを感じると、
子どものデリケートな脳は、
その苦しみになんとか適応しようとして、
自ら変形してしまいます。
生き延びるための防衛反応です。
脳が変形することでどんな悪影響があるのでしょうか。
マルトリートメントにはいくつかの種類があり、
体罰など身体的なもの、
言葉の暴力などによる精神的なもの、
育児の放棄や育児の怠慢、
いっしょにお風呂に入ったり裸で家の中をうろうろするなどの性的なものがあります。
これらのそれぞれの種類によって、
脳のダメージを受ける部位も違います。

マルトリートメントの多くは、
子どもに対して強い言葉を使って脅したり、
否定的な態度を示したりするものですが、
直接子どもに向けられた言葉ではなく、
両親間のDV(ドメスティック・バイオレンス)を見聞きさせるような行為(目前DV)も、
子どもの心と脳の発達に悪影響があります。
∵言葉による暴力が脳に大きく影響する
そして、
身体的なDVよりも、
言葉によるDVを見聞きする方が子どもの脳により大きく影響します。
子ども時代にDVを見聞きして育った人は、
脳の後頭葉にある視覚野の一部で、
単語の認知や、夢を見ることに関係している舌状回という部分の容積が、
正常な脳と比べて小さくなっていました。
そして、
その萎縮率を見てみると、
身体的なDVを見聞きした場合は約3%でしたが、
言葉によるDVを見聞きした場合には約20%も小さくなっていました。
つまり、
身体的な暴力を見聞きした場合よりも、
罵倒や脅しなど、言葉による暴力を見聞きしたときの方が、
子どもの脳へのダメージが大きいということです。
また、
「目前DV」だけではなく、
仮に目の前では起きていなくても、
隣の部屋から聞こえたり、
子どもは敏感に家庭内の出来事を察知していますから、
多くの場合、
自分のせいで両親が喧嘩していると罪悪感を持ちます。
∵子どものサイン
何らかの要因から親が家庭で攻撃的になって子どもを責めると、
子どもも外の世界で攻撃的になります。
友達を叩く、
動物を虐待する、
先生に反抗するなどの問題行動を起こします。
これは決して一時的なものではなく、
マルトリートメントによって起こる脳へのダメージによって、
それぞれの機能がうまく働かなくなることで、
子どもの正常な発達が損なわれ、
生涯にわたって影響をおよぼしていきます。
たとえば、
衝動性が高く、切れやすくなって周囲の人たちに乱暴をはたらいたり、
じっとしていられなかったり大きな声を出すなど、
落ち着きがなくなります。
∵愛着障害
また、
5歳までの時期に、
しっかりと話を聴いてもらったり褒められたりすることが少ないなど、
親との愛着がうまく形成されないことで愛着障がいを引き起こしてしまうこともあります。
感情コントロールに困難が見られたり、
不注意や多動症の症状が出るほか、
おどおどしたり、
親が怒ったときにすごく怯えるといった症状が出たり、
喜びや達成感を味わうところの働きが弱くなるせいで、
より刺激の強い快楽を求めるようになり、
アルコールや薬物に依存することもあります。
∵改善できないと大人になっても苦しむ
大人からのマルトリートメント環境が改善されないまま育った場合、
健全な心や神経の発達が損なわれ、
「生きづらさ」を抱えて生きることになります。
対人関係に苦しむ「社会的障害」、
意欲の消失やうつ症状の発現などの「情緒的障害」、
認知機能がなかなか向上しない「認知的障害」を抱え、
気分障害、不安症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、解離症、境界性パーソナリティ障害などの精神疾患にもつながっていきます。
∵まとめ
虐待に見えないくらい軽く弱くても、
子どものためだと思ってした行為であっても、
傷つける意思がなかっても、
子どもの心身が傷つける行為は、
全てマルトリートメントです。
その行為は、
子どもの脳の成長を萎縮させます。
また、
身体への暴力より言葉の暴力の方が
はるかに大きく影響します。
そして、
子どもの話を聴くことが少なかったり、
褒めることが少なかったりすると、
愛着形成がうまくできなくなります。
これらは、
情緒の不安定や
学習障害をもたらし、
大人になっても苦しむことになります。
子どもの今と将来のために、
子どものサインを見逃さないことは大切です。